過払い金|求償権の時効の争い


主 文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実

第一 請求

1 被告は,原告に対し,金1706万2587円およびうち金434万6000円に対する平成13年7月31日から支払い済まで年14.6パーセント(年365日の日割計算)の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第二 事案の概要

本件は,金融機関の訴外主債務者に対する貸付を連帯保証した原告が,連帯保証債務を履行して訴外主債務者に代わって金融機関に対し代位弁済したとして,訴外主債務者に対する求償債務の連帯保証人である被告に対して,求償債務の支払いと最終入金日の翌日から約定の損害金を請求した事案である。
一 争いのない事実等
1 株式会社A銀行(以下「A」という )は,訴外有限会社B(以下「主債務者」という )に対し,昭和57年12月1日,手形貸付により600万円を次の約定で貸し渡した(以下「本件消費貸借契約」という 。
。)(一) 借入利率 年8.0パーセント(但し,金融情勢の変化により変動する )。
(二) 返済方法 元金を6回に分割し,昭和58年1月から同年6月まで毎月末日限り100万円ずつ支払う。
利息は借入日に差し入れた約束手形の支払期日までの利
息を前払いし,約束手形の書替の都度,書替手形の支払期
日までの利息を前払いする。
(三) 損害金 年18パーセント
(四) 特約 手形交換所の取引停止処分を受けた時は,期限の利益を失う。
2 原告は,訴外主債務者の委託により,Aとの間で,昭和57年11月30日,前記1の債務を連帯保証した。
3 原告は,訴外主債務者との間で,前項の保証委託に際し,原告がAに対して保証債務を履行して前記1の債務を代位弁済した時は,訴外主債務者が原告に対し,代位弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から年14.6パーセント(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金を直ちに支払うとの合意をした。
4 被告は,原告に対し,昭和57年12月1日,訴外主債務者の原告に対する前項の債務を連帯保証した。
5 訴外主債務者とAは,昭和58年2月28日,本件消費貸借契約の支払方法を下記のとおり変更する合意をし 原告は 訴外主債務者の委託を受けて従前どおりAに対して本件消費貸借債務を保証し,被告は,原告に対し,従前どおり訴外主債務者の原告に対する債務(以下 本件求償金債務)というを連帯保証した。
(一) 残元金 金550万円
(二) 借入利率 年8.0パーセント
(三) 返済方法 残元金を7回に分割し,昭和58年3月から同年5月まで毎月末日限り金50万円ずつ,昭和58年6月から同年
9月まで毎月末日限り100万円ずつ支払う。
6 訴外主債務者は,前項の元金については,昭和58年3月31日までに50万円の弁済をしたのみで,利息については,同年6月8日分までを支払った後,同年5月6日C手形交換所の取引停止処分を受けたため,期限の利益を喪失した (甲33,弁論の全趣旨)。
7 原告は,Aに対し,昭和58年5月31日,前記2の保証債務の履行として500万円の貸付残元金から戻し利息金8767円を控除した499万1233円を代位弁済した (甲1,甲2,弁論の全趣旨)。
8 原告は,平成7年1月31日に5900円の弁済を受けたことを含め,平成13年7月30日までに訴外主債務者から合計金71万0330円の弁済, , 。
を受け 元金に64万5233円 約定損害金に6万5097円を充当した(甲5の3,甲6の1,甲7ないし27,弁論の全趣旨)
9 原告は,昭和58年6月7日,訴外主債務者の本件求償金債務を担保するために別紙物件目録記載の不動産について設定していた根抵当権に基づき,不動産競売の申立(岡山地方裁判所C支部昭和58年(ケ)第48号 (以下)本件競売事件 という をなし 同月8日不動産競売開始決定 以下 本「 」 。) , ( 「件開始決定」という )がなされ,同月9日差押の登記がなされ,本件開始。
決定正本は訴外主債務者に公示送達された。
本件競売事件は,別紙物件目録記載1の土地については,1岡山地方法務局C支局昭和54年12月18日受付第39916号の根抵当権に基づくもので,昭和60年4月25日競売によって売却され,原告に対し配当金が昭和60年5月24日交付されたが,残った同目録記載2ないし5の土地については,2岡山地方法務局C支局昭和56年10月31日受付第35054, 。
号の根抵当権に基づくもので 平成7年3月24日取り下げにより終了した(以下1及び2の根抵当権を「本件根抵当権」という (甲3,甲4,甲。)5の1ないし3,甲28ないし32,甲34)
, , ,10 被告は 原告に対し 平成13年9月17日の本件口頭弁論期日において本件求償金債務の消滅時効(主債務の消滅時効)を援用する旨の意思表示をした。
二 争点
被告が保証した本件求償金債務は,本件競売事件取り下げ前である平成7年1月31日に訴外主債務者が弁済したことによって消滅時効が中断したか。
同日の弁済は,その後本件競売事件が取り下げられたことにより消滅時効完成後の弁済と扱われるか,それとも消滅時効完成前の弁済と扱われるか。
(被告の主張)
訴外主債務者の負担する本件求償金債務は,訴外主債務者が商人であるので商事債務として5年の消滅時効にかかるところ,本件競売事件で別紙物件目録記載1の土地の配当金が原告に対して昭和60年5月24日に交付されたことにより消滅時効は中断し,その翌日である昭和60年5月25日から再び消滅時効が進行して,5年を経過した平成2年5月24日の経過により本件求償金債務の消滅時効が完成している。
仮に原告が主張するように,本件競売事件取下前である平成7年1月31日以降現在まで訴外主債務者が弁済していて債務の承認に該当するとしても,本件競売事件が取り下げられたことにより差押による時効中断効は生じなかったこととなるから,訴外主債務者による債務の承認は時効完成後の債務の承認であり,訴外主債務者は信義則上時効を援用できなくなったとしても,連帯保証人である被告は,かかる訴外主債務者の個別的な事情に左右されず本件求償金債務(主債務)の時効を援用することができる。
(原告の主張)
本件開始決定が訴外主債務者に対して公示送達されたことにより,差押を理由として本件求償金債務の消滅時効は中断した。
訴外主債務者は,平成7年1月31日以降現在まで本件求償金債務を弁済しているから,差押が継続中に債務承認による新たな時効中断効が生じており,同年3月24日本件競売事件を取り下げたことによって,いったん債務承認による時効中断効が発生したにもかかわらず遡って時効完成後の債務承認となるわけではなく,時効完成前の債務承認である。
民法457条1項により,訴外主債務者の承認による時効中断の効果は,連帯保証人である被告に及ぶ。

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第三 当裁判所の判断

一 債権者から物上保証人に対する根抵当権の実行としての競売の申立がなされ,執行裁判所が競売開始決定をしたうえ,同決定正本を債務者に送達した場合には,時効の利益を受けるべき債務者に差押の通知がなされたものとして,民法155条により,債務者に対して当該根抵当権の実行にかかる被担保債権について消滅時効中断の効力を生じる (最判昭和50年11月21日民集2。9巻10号1537頁参照)
しかし,債権者が根抵当権の実行としての競売を申し立て,競売開始決定正本が債務者に送達されても,根抵当権の被担保債権について催告(民法153条)としての効力が生じるものではないと解すべきである (最判平成8年9月27日民集50巻8号2395頁参照)
そして,物上保証人に対する不動産競売において,債務者に対する民法155条による被担保債権の消滅時効中断の効力が生じた後,債権者が不動産競売の申立を取り下げた時は,かかる時効中断の効力は,差押が権利者の請求によって取り消された時(民法154条)に準じ,初めから生じなかったことになると解するのが相当である (最判平成11年9月9日裁判集民事193号6。
87頁参照)
二 これを本件についてみると,上記争いのない事実等によれば,本件求償金債務は本件根抵当権12の両方の被担保債権となっており,本件開始決定が訴外主債務者に送達されたことにより本件求償金債務につき民法155条の差押による時効中断の効力がいったん発生し,本件根抵当権1に基づく競売手続きについては昭和60年5月24日配当金交付により終了しているので,同日までは差押による消滅時効中断の効力が持続していたことになる。
しかし,本件根抵当権2に基づく競売手続きについては,原告は,平成7年3月24日本件競売申立を取り下げたというのであるから,本件根抵当権の被担保債権である本件求償金債務についての民法155条による消滅時効中断の効力は初めから生じなかったこととなる。
そうすると,結局本件求償金債務の時効中断の効力は,昭和60年5月25日以降生じていないことになり,本件求償金債務は,商事債務であり5年の消滅時効にかかるから,同日から5年後の平成2年5月24日の経過により消滅時効が完成したといわざるを得ない。
従って,訴外主債務者の平成7年1月31日の弁済は,消滅時効完成後の弁済と扱うことになる。
三 そうすると,訴外主債務者が本件求償金債務の消滅時効を援用することは信義則に違反しできないが,連帯保証人である被告は,訴外主債務者が消滅時効を信義則上援用できなくなっても連帯保証人として本件求償金債務の消滅時効を援用することはなんら妨げられない。
よって,本件求償金債務は,被告の消滅時効援用によって消滅したと言わざるを得ない。
四 以上によれば,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

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